スポーツと栄養

食物の栄養効果と運動

岡村 浩嗣 (大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科 運動栄養学)

 健康情報に対する人々の関心は高く、多くの情報で溢れかえっている。中でも栄養・食物に関するものに対する関心はとりわけ高いように感じる。科学的根拠に基づいて正確に伝えられている情報がある反面、実験 結果を過大に解釈したり、事実を誤認させたりするようなものもある。
 栄養・食事に関する情報は実験データがあっても、そのデータが一般の生活に利用できるかどうかについて正確に伝えるのは難しい。その理由の一つが、実験された状況を一般の生活に置き換えることができるとは限らないということである。
 また、身長、体重はみんなが同じではないし、運動量や睡眠時間などの生活パターンもさまざまである。男性と女性で実験結果が異なることもあるし、年齢によっても何かを食べたり飲んだりしたときに体に起こることが違うことがある。しかし、実験結果に影響するこれらすべての要因を網羅して実験を行うことは困難である。にもかかわらず健康情報は、どんな人にでも効果があるように伝えられることが多い。WHO(世界保健機関)は日本の特定保健用食品は、一般の人々の関心を特定の飲食品に向かわせて、もっと大切であるはずの食生活をおろそかにする危険があるとしている。
生活には活動と休息のリズムがある。このリズムは食べたり飲んだりしたものが、どのような効果を発揮するかに強く影響する。
筋肉の材料となるたんぱく質は、たくさん摂れば摂っただけ筋肉になるわけではない。筋肉づくりを刺激するには運動することが必要である。運動しないでたんぱく質だけたくさん摂っても、たんぱく質は筋肉にはならないで、エネルギーとして消費されたり体脂肪になって蓄積したりする。同じものを食べても、運動しているか、していないかによって食べたものの栄養効果が違う一例である。
 運動するためには筋肉が必要なので、日常的に運動していると筋肉を増やすことが必要になる。運動中は、筋肉は分解が合成を上回った状態になる。このため、運動後には分解した筋肉を作り直したり増やしたりすることが必要である。運動後にたんぱく質を摂らなければ筋肉を十分につくることができないので、運動後にはたんぱく質を摂ることが必要である。このとき、たんぱく質だけでなくて炭水化物をいっしょにとることが効果的である。筋肉づくりに必要なエネルギーを供給したり、体内のホルモン状態を筋肉づくりに適したように整えたりするのに炭水化物が役立つためである。そして、運動後にはこれらの栄養成分を早めに摂ることが効果的である。筋肉が必要とする栄養素を必要なときに筋肉に供給したり、筋肉づくりを高めるホルモンであるインスリンをタイムリーに高めたりできるからである。スポーツ選手にトレーニング後の食事は早めに摂ることが勧められるのはこのためである。「摂取タイミング」が大切なことは国際オリンピック委員会のスポーツ選手の栄養に関する声明でも述べられている。
 食べ物の消化・吸収にはある程度の時間がかかる。筋肉づくりの材料は血中のアミノ酸である。したがって、運動後に筋肉づくりが活発になるときに筋肉の材料になるアミノ酸の血中濃度が高まっていることが望ましい。運動後の早い時期に多くのアミノ酸が筋肉に供給されるようにするためには、運動前や運動中にたんぱく質を摂ることが効果的な場合もある。ウエイトトレーニングなどの動きの激しくない運動では、運動前や運動中に摂ることもできるだろう。ただし、運動前や運動中が効果的な場合があるといっても、食べ過ぎて運動できなくなっては何にもならないので気をつける必要がある。