科学的な健康づくり
運動不足が影響する病気とその科学的根拠
〜新しい名前の運動不足病〜
内藤義彦  大阪府立健康科学センター 健康度測定部長
運動不足(生活全体の身体活動が不足しているという表現の方が正確)は今や地球的規模で拡がり、その影響の一つである肥満者が増加しているということが世界各地の調査により報告されています。これまで肥満は、どちらかというと、先進諸国の健康問題とされがちでしたが、発展途上国においても肥満の蔓延(まんえん)が問題になってきています。日本でも若い年齢層の女性を除いて肥満者が着実に増えており、肥満の増加に伴い、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化など、肥満に関連する病気にかかる人も増え、今後の医療費の動向に大きな影響を及ぼすものと考えられています。
 米国では、政府機関やNPOなど多くの団体が、身体活動の不足およびそれに関連した肥満の増加傾向に対して警鐘を鳴らし、全国的な様々なキャンペーンを展開しています。そういう状況の下、2000年にセダンタリー・デス・シンドロームSedentary Death Syndrome(SeDS)という病名が提唱されました。SeDSとは、座りがちで、あまり動かない生活(例えば、歩行強度以上の身体活動が1日に15分に満たない)を続けていることが生死に関わる恐れのある病気を筆頭にさまざまな病気に関係していることを印象付けるねらいで名付けられた病名(症候群)であり、26の病的な状態(表)を列挙しています。実に多くの病気に運動不足が関係し人々の健康をむしばんでいること、また皆さんの馴染みが深い病気が多いことが注目されます。 
 SeDSの名前を提唱に当たっては、人々をあおるような意見を述べたり大げさに言ったりすることはなく、身体活動不足に関連する可能性の高い科学的根拠に基づいています。過去においても運動不足病という似たような意味の病名(日本の「成人病」と「生活習慣病」の関係に似ていますね‥‥)がありましたが、言葉のインパクト度はSeDSがはるかに大きいように感じられます。なお、表2は前々回のニューズレターでも述べました、運動との関連について科学的根拠が確かな病気を分類したものです。
 日本でもSeDSの名称が関心を引くかどうかは適切な日本語訳が可能かどうかですが、座死症候群、運動不足致死症候群、低身体活動死亡症候群、あるいはオリジナルとはニュアンスが異なりますが、怠惰早世症候群、グータラ早死症候群などはどうでしょうか?
 以上のようなやり方で、府民の運動不足について警鐘を鳴らし、何とか改善しようという意欲を高めるキャンペーンのアイデアを考えてみてはいかがでしょうか!
表1 SeDSに含まれる26の病的状態
1 狭心症、心臓発作(冠状動脈疾患) 14 低HDLコレステロール血症
2 関節炎による痛み 15 更年期の様々な症状
3 不整脈 16 肥満
4 乳がん 17 骨粗鬆症
5 結腸がん 18 膵臓がん
6 うっ血性心不全 19 末梢血管疾患
7 うつ病 20 身体的虚弱
8 消化器疾患 21 早世(壮年期死亡)
9 胆石症 22 前立腺がん
10 高トリグリセリド血症 23 呼吸器障害
11 高コレステロール血症 24 睡眠時無呼吸
12 高血圧症 25 脳卒中
13 認知機能の低下 26 2型糖尿病
表2 身体活動量と疾患の罹患率・死亡率の関連
疾病または病的状態 研究の数 科学的証拠の強さ
全死亡 *** ↓↓↓
冠動脈疾患 *** ↓↓↓
高血圧症 ** ↓↓
肥満 *** ↓↓
脳卒中 ***
末梢血管疾患
結腸がん *** ↓↓↓
直腸がん ***
胃がん
乳がん **
前立腺がん ***
肺がん
膵臓がん
U型糖尿病 ** ↓↓
骨関節症
骨粗鬆症 ** ↓↓
研究の数
*少ない研究.おそらく5未満>
**約5〜10個の数>
***10個以上の研究の数>
証拠(身体活動が多いほど疾患や死亡が減る)の強さ
→証拠がない>
↓いくらかの証拠がある>
↓↓よい証拠がある>
↓↓↓優れた証拠がある>
(アメリカスポーツ医学協会ガイドライン6版)