科学的な健康づくり

内藤義彦  大阪府立健康科学センター 健康度測定部長
運動の健康や病気の予防効果については多くの科学的根拠が集まっていますが、一方で両刃の剣と言われるように、運動による危険性もしばしば話題になります。今回は、循環器系に対する運動の弊害の科学的根拠について論じてみましょう。
 まず、運動による弊害には、突発的なものと長期的なものに分けることができます。突発的なものとしては、運動中の著しい血圧の上昇、不整脈、血流の障害、血液の固まりやすさの変動、及びそれらが原因でおこる心臓発作、脳卒中、あるいは突然死の発生リスクの増大などが挙げられます。特に運動中あるいは直後の突然死はしばしばマスメディアでも採りあげられますが、中高年者の突然死の原因疾患は、心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患(70%以上と言われる)が圧倒的に多く、脳卒中がそれに続くとされています。
 運動時の突然死の危険性に関する古典的な研究によれば、運動している最中に心臓発作をおこす危険性は、運動していない時の4〜12倍に達すると報告されています。一方、米国の男性医師を対象にした最近の研究では、多量の汗をかくような強い運動の最中または直後に突然死の起こる危険性は、他の時間帯に突然死が起こる危険性の約17倍にも達しましたが、絶対的な危険性という点では150万回の強い運動に対して1回の突然死がおこる程度に過ぎないという計算になります。また、突然死の危険性は、日頃の運動の頻度と関連があり、運動が週1回以下の男性は週5回以上の男性と比較して7倍も高い結果でした。要するに、たまに行う強い運動は良くないが、日常的に運動するのであれば突然死の危険性は比較的低いという結果でした。
 長期的には、運動によって心臓に大量の血液が戻りかつ強く押し出すことによる心臓及び血管壁へ負担が悪影響を及ぼすおそれがあります。また、運動中に生じる活性酸素が血管の老化を促進するおそれがあることを心配する向きもありますが、一般的には運動不足の方がはるかに良くないとされています。米国の大規模調査報告では、身体活動量が少ない、多い、中等度の順に死亡率が低くなり、身体活動量が多い方が中等度の方よりも高い死亡率を示しました。わが国でも、従来重労働に属する仕事に従事した人から脳卒中が多発したという報告があります。もっとも、米国大学卒業生の例のように、強い運動をしていた者ほど寿命が長いという報告もあり、確定的な結論は出ていない状況です。
 以上の結果をふまえると、健康づくりの観点から運動の効用を求めるならば、中等度の強度の身体活動が好ましく、強い運動ならなるべく定期的に行うべきと考えられます。
運動は心臓病の予防に効果的があるけれど‥‥
米国の大学卒業生(35〜74歳、約17,000人)を対象とした追跡調査(下図参照)によれば、1週間に運動で2,000kcal以上のエネルギーを消費した人は、それより少ない人に比べ、心臓発作による死亡の危険性が約30%も低くなっていました。
ただし、運動のやり過ぎは、効果が少なくなるばかりか、逆に危険性が増す場合があります。図でも、3000kcal以上のエネルギーを消費するグループではかえって死亡率が高くなっているようにみえます。「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということでしょうか。
 一般論としては、運動には、やり方によっては不利益や危険な面もありますが、それをはるかに上回る多くの効用があり、むしろ運動不足の方が問題といえます。