スポーツ障害の予防
大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科 アスレティックトレーニング教育 鶴池 政明
 スポーツ障害は、オーバーユース症候群と急性外傷に分けることができます。障害は、スポーツの種類や競技レベル、あるいは年齢によって変わるでしょう。さらに、練習の頻度やタイプ、たとえばシーズン初め、さらに試合など活動内容によっても変わるでしょう。ここでは年齢別による代表的なオーバーユース症候群を述べます。
1. オーバーユース症候群
<剥離骨折>
 中学生や高校生では、腱が骨の付着部を剥ぎ取る剥離(はくり)骨折があります。たとえば、膝蓋靭帯(しつがいじんたい)が脛骨(けいこつ)付着部を剥離する「オスグッド・シュラッター病」があります。これはサッカーやバレーボールの少年選手によく見られます。次に、少年野球では肘の痛みがあります。ボールを投げる投球動作は、手首の過伸展と肘の外反が起こります。強い投球動作を繰り返すと、手首を屈曲させる筋肉が、その腱の付着部である上腕骨(じょうわんこつ)の内側部を剥離させます。あるいは肘の内側に上腕骨と尺骨(しゃっこつ)を結ぶ内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)があり、この靭帯が上腕骨の付着部を剥離させます。剥離骨折は骨盤でもあります。大腿部に付着している筋肉の腱は骨盤から始まっています。陸上選手で骨盤前面部に痛みがある場合は、骨盤の剥離骨折を疑います。
 思春期の選手は、小学生のころと違い心肺機能が発達し、急に長時間の練習ができるようになります。しかし骨は未完成なため、腱や靭帯の方が組織的に強いことがあります。思春期の骨格筋の痛みは、剥離骨折を疑うことが大切でしょう。

<ジャンパーズニー(膝)>
 骨格の成長が終わると、膝蓋靭帯全体に痛みを覚えるジャンパーズニーがあります。高校生から成人のバレーボールやバスケットボール選手によく見られます。運動中の急激な停止やダッシュ、激しいジャンプは大腿四頭筋を強く働かせ、膝蓋靭帯にストレスを与え続けます。
 予防のためのエクササイズは、練習前の大腿部および股関節のストレッチ、レッグエクステンションやランジによる膝周辺の筋力トレーニングが有効です。さらに45~60cm程度のボックスに両足ジャンプ昇りを行うのも効果です。痛みがある間は、スポーツを一時止め、アイシングを行い、エアロバイクやステアークライマーなどの身体運動を行いましょう。練習復帰では、まず後方ランニングから行うと膝にストレスを与えないでしょう。

<インピンジメント症候群>
 バレーボール、テニス選手、あるいは水泳のバタフライやフリースタイルの競泳選手など腕を頭越しで振るスポーツでは肩の「インピンジメント症候群」があります。この傷みは、肩の前面部にあらわれます。力強く腕を振ろうとするために上腕が肩の高さより上の位置になります。この時、肩峰下(けんぽうか)(あるいは肩鎖関節下)の空間が狭まり、その下にある滑液包(かつえきほう)や棘上筋(きょくじょうきん)の腱がこすれ、炎症を起こします。
 予防は、腕の振る位置や上肢全体の動きのフォームの見直しが必要になります。エクササイズは、上腕を外旋させる筋肉を鍛えます。たとえばチューブを用い、肘を90°に曲げ、上腕を体側に付け、姿勢を崩さず手に持ったチューブを胸から水平に引く運動を行います。運動強度は、20回を最大にできるチューブを選び、15回3セット程度を行います。この外旋筋は、腕を肩の位置まで挙げた時に、肩関節と肩峰下の空間を維持します。

<腰痛>
 スポーツにおける腰痛の80%は、筋肉の挫傷(ざしょう)と言われています。過度の運動が腰を疲労させます。一般に、スポーツは股関節をたくさん動かします。たとえばスポーツでよくある股関節を曲げる中腰姿勢は、腸腰筋(ちょうようきん)を緊張させます。股関節の筋肉の疲労は、腰部の筋肉の働きに影響を与えます。疲労を残さないためにも、運動後股関節周辺のストレッチを行うことや軽い運動によるクールダウンが大切です。さらに腰痛予防のエクササイズには、身体のバランスを伴う体幹トレーニングがあります。
 腰痛には、腰痛分離症があります。これは脊髄を取り囲む椎弓根(ついきゅうこん)の骨折のことを言います。この腰椎分離症は、前思春期にすでに起きているとも言われています。子どもの長時間の競技練習が引き起こすオーバーユース症候群です。しかし子どもは腰痛を訴えません。ところが高校生あるいは大学生になると腰痛を訴え始めます。思春期において2~3週間腰痛が続くと、専門医の診断が大切になってきます。

<オーバーユースのガイドライン>
 スポーツによる痛みは、練習をするべきか、休むべきかのジレンマに陥らせます。この時大切なことは、オーバーユースのガイドラインに従うことです。ガイドラインでは、「練習は痛みをもって行うべきでない。」少なくとも「練習開始20-30分後に痛みは完全に消失している」ことです。練習開始20-30分後に痛みがあるなら、その日の練習を中止し、患部のリハビリテーションあるいは別メニューを行うべきです。オーバーユース症候群は、特に進学などによる環境の変化後やシーズン始め、あるいは未熟な選手でモチベーションの高い選手にみられます。一方で、ベテラン選手は身体の変調に敏感であり、オーバーユースに陥らないと言えます。
2. 急性外傷
 急性外傷とは、予期せず突然に起こるけがのことです。たとえば骨折や捻挫さらに脱臼、肉ばなれ、打撲のことです。競技スポーツは、年齢や種目あるいは競技レベルに関係なく、常に急性外傷の危険性があると言えます。ここでは、フィールドや体育館で行うチームスポーツの選手がたびたび受傷する前十字靭帯断裂について述べてます。

<前十字靭帯断裂>
 膝には、関節の両側にある側副靭帯と膝の中で交差している2つの十字靭帯があります。十字靭帯は、大腿骨と脛骨が前方・後方に動揺しないように働いています。スポーツでは、特に前十字靭帯の断裂が生じます。その外傷メカニズムは未だ解明されていませんが、一つは急激な停止や走行の際、地面に着いている足の下腿と大腿部が内側に反れ、同時に下腿と大腿の内旋と外旋のバランスが崩れた時に大腿骨の顆間窩(かかんか)で靭帯の断裂を起こすと言われています。スポーツでは、選手が突然に膝崩れから転倒します。その時選手が膝の中で何か切れるような感じ、あるいは音などを聞き、その後膝の中が腫れることになれば、専門医の診断を要します。前十字靭帯断裂後は、大腿四頭筋に力が入らなくなります。受傷した選手が同じ競技を復帰希望するなら手術が必要になります。そして再腱手術後、10ヶ月から1年間ぐらい専門的なコンディショニング指導を要します。

<RICE処置>
 骨格筋の急性外傷は、生命の危険を脅かすものではありません。しかし応急処置を含め痛みのマネジメントを怠ると慢性障害に発展する恐れがあります。急性外傷にはRICE処置を行ってください。これは、Rest(安静)、Ice(アイス)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字からつづった応急処置です。急性外傷では、これらすべてを行うことが大切です。特に圧迫が大切になってくることでしょう。患部を腫れさせると、痛みを長引かせることになります。アイスは、外傷後に見られる炎症や痛みを和らげる働きがあります。急性外傷後の24時間から48時間はアイスを1時間おきに20-30分程度行ってください。
 捻挫などの再発予防には、テーピングが必要になってくるでしょう。市販のサポーターやブレースも有効でしょう。その目的は、関節の動揺を防ぐだけでなく、患部の感覚意識を高める働きがあり、結果的に患部周辺の筋収縮を活性化させます。
3. アスレティックトレーナー
 競技スポーツは、種目やレベルあるいは年齢に関係なく、組織的に取り組むことが大切です。技術指導をしていくれるコーチ、スポーツ障害を指導してくれるアスレティックトレーナーの存在が必要です。コーチとさまざまな専門医と連携しているアスレティックトレーナーは、スポーツ障害の予防だけでなく、選手にスポーツ医・科学の情報を提供するでしょう。
●関連リンク
スポーツ医学. jp
http://www.spomed.jp/s_shogai.htm
国立スポーツ科学センター
http://www.jpnsport.go.jp/jiss/
スポーツ障害. com
http://www.sports-shogai.com/
横浜スポーツ情報サイト「ハマスポどっとコム」
http://www.hamaspo.com/sport/vol_168/ysmc.html
とやまスポーツ情報ネットワーク「スポーツ障害Q&A」
http://www.sportsnet.pref.toyama.jp/contents/qa/sportssyogai-qa/index.html
メルクマニュアル医学百科「スポーツ障害」
http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec05/ch075/ch075a.html