生活習慣病予防とスポーツ
大阪ガス株式会社健康開発センター 統括産業医 岡田 邦夫 [(1)〜(6)]
大阪府立健康科学センター 健康度測定部長 内藤 義彦 [(7)〜(9)]
(注)記事は、過去の大阪府ニューズレターからの抜粋です。執筆者の所属は、発行当時のものです。
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(1)体力づくりと健康強度 (2)医科学的な面からの「健康的な体力づくりについて」T
(3)医科学的な面からの「健康的な体力づくりについて」U (4)高血圧とライフスタイル
(5)The Osaka Health Surveyからみた健康づくりの考え方
   〜ライフスタイルと2型糖尿病〜
(6)健康づくりのための身体活動
(7)運動不足が影響する病気とその科学的根拠
   〜新しい名前の運動不足病〜
(8)科学的な健康づくりT
(9)科学的な健康づくりU   
(1)体力づくりと運動強度
 運動障害を予防する点から、また効果的な体力づくりの点からも運動強度はきわめて重要な因子です。現在、スポーツ医学の分野では、運動強度は、生理的強度、心理的強度、物理的強度の3つが指標となっています。この3つをうまく組み合わせて運動を実践することによって、所期の目的を達成することになります。生理的強度とは、心拍数、血圧、最大酸素摂取量、基礎代謝量などがあり、心理的強度は、「楽である」、「ややきつい」、「きつい」などで表されるいわゆるボルグの主観的運動強度尺度があり、物理的強度には、トレッドミルにおける速度・傾斜角度、自転車エルゴメーターにおける負荷強度(WATT)、があります。安全を考慮した運動指導を実施する場合には、少なくとも2つの運動強度指標を用いることが望ましいといえます。運動を指導する立場にある人は、それぞれの運動強度の関連を周知することによって、運動の安全性と効果性を得ることができます。私どもの経験からは、例えば、40歳代を中心として中高年齢者においては、自転車エルゴメーターで2ワット/Kgで50回転/分ですと、ボルグのスケールでは「ややきつい」となります。
 このような関係を熟知することによって、異常な反応が見られれば、心肺機能などに何らかの問題点があるのでは、ということになります。
 また、レジスタンストレーニングにおいても、RM(Repetition Maximum)がトレーニング指導の指標に使われていますが、筋肥大を目的にするのであれば10RM程度、筋持久力を養成するのであれば20RM程度が基準となります。しかし、中高年齢者を対象とした場合には、血圧の変動や、心理的強度を参考にして、リスクを最小限にしたトレーニングプログラムを作成することが望ましいといえます。
 また、疾病を有している場合には、自覚症状(胸痛、下肢痛など)や他覚症状(顔色の変化、チアノーゼなど)なども運動強度を決定する際に重要な因子となるので、注意が必要です。
(2)医科学的な面からの「健康的な体力づくりについて」T
 運動能力(体力)を高めるためには、自分にあったトレーニングプログラムが必要です。その中でも特にトレーニングにおける強度と持続時間が重要で、現状の体力水準以下の強度設定でのトレーニングを続けることは、健康づくりには寄与しますが体力づくりにはなりません。体力づくりに必要な運動強度を決めるには、運動負荷試験を受け、血中乳酸値が急に上昇する点(無酸素閾値−第一変曲点)を測定して、それを上回る強度でのトレーニングが必要となります。無酸素閾値に相当する強度としては、一般的には、最大酸素摂取量の50%くらいとされています。しかし、100%強度でのトレーニングの継続は不可能ですので、オールアウトにならず、かつ効果的に体力(ここでは全身持久力)を向上させるためには、一定の強度でかつ一定の運動持続時間が必要となります。その指標として、OBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)があげられます。この指標は、血中乳酸値が無酸素閾値を超え、その後上昇しますが、さらに急に上昇する点(第二変曲点)で表されます。この点を超えてしまうと、オールアウトに至り、トレーニングが継続できなくなり、全身持久力が強化される前に中断せざるを得ない状況に陥ってしまいます。この点に相当する強度は、乳酸濃度が4mmol/Lに到達する強度、または最大酸素摂取量の85%くらいとされています。つまり、最大酸素摂取量の50%以上で85%以下の強度の範囲でトレーニングを継続することによって、最も効果が得られることになります。
 もし、全身持久力の効果的な向上を期待するのであれば、運動負荷試験を受け、無酸素閾値やOBLAを測定し、その結果から、おのおのに相当する心拍数を算出し、その目標心拍数の範囲でトレーニングすることが必要となります。また、その時の心理的運動強度を自覚することによって、生理的運動強度、物理的運動強度との相関を知ることになります。
 科学的にトレーニングをするとは、自分自身の運動時の反応をまずしっかりと理解することなのです。そのためには、トレーニング時の呼吸循環系の反応を評価・分析しなければなりません。また、全身持久力のためのトレーニングには、継続が必要で、そのためにはスポーツ障害を発生させないための筋力と柔軟性も必要です。自覚、経験はファジーですが、そのファジーなところに科学的な数値を組み入れることによって、効果的に体力レベルが向上し、かつ心理的な強さも生まれ出てくるのです。
(3)医科学的な面からの「健康的な体力づくりについて」U
 現在の健康状態と体力レベルを維持することを健康づくりとすると、体力づくりとは、現在の体力レベルをさらに向上させることをいいます。従って、運動するにしても、その強度が異なることになります。つまり、日常生活活動レベルの強度で活動的な毎日を送ることが健康づくりであって、体力づくりは、非日常的な強度で運動をすることが必要となります。そのため、一方では運動障害のリスクについて対応しなければなりません。
 スポーツ選手を対象とした従来のスポーツ医学は、いまや健康な人や疾病を有する人を含め、すべての人を対象としているといっても過言ではありません。そのために、体力づくりを安全に進めていくためには、一定のルールを作り、それを守ることが必要です。健康な人は、自覚症状などのチェックとともに、医学的検査ならびに運動負荷試験を受け、安全で効果的な運動強度を決めることが必要です。また、疾病を有している方は、現在の病気の程度や合併症の有無ならびに運動負荷試験の結果から、まずは運動をしてもよいのかどうか、運動可能であればどのような運動の種類、強度、頻度が望ましいのか、さらには、薬物を服用している場合には、食事や薬物服用時間と運動を実施する時間帯を医師から指示を受けることが望ましいといえます。当初は、運動強度を低めに設定し、徐々に望ましい強度に上げていけば安全でしょう。頻度についても、Pollockらの報告にあるように、最初は1回15分くらいのジョギングを週に1〜2回位から初め、その後1回30分で同じ頻度にすれば、持久力は向上しますし、運動障害発生の確率も低くなります。運動の効果は、強度が強いほど大きいというわけではありません。運動障害という思わぬ伏兵によって余儀なく中断、というリスクを避けるために、スポーツ医学があるのです。また、持久力をつけるためには、筋力と柔軟性のバランスも必要です。健康的な体力づくりは、栄養と同じように、量(過食)、バランス(偏食)、進め方(欠食、早食い)などを考えて実施することによって、その目的を達成することができるのです。
 体力づくりをする前に、あなたは、活動的な日常生活を送っていたのでしょうか。
(4)高血圧とライフスタイル
 高血圧は糖尿病、高脂血症と合わせて三大生活習慣病と呼ばれています。その原因としては、過食や過剰な塩分摂取、運動不足などがあげられていることから、これらに適切に対応することによって予防することも可能です。
 The Osaka Health Surveyの結果から、男性サラリーマンで、通勤時の片道歩行時間が21分以上で、将来の高血圧発症の相対リスクが29%減少することが明らかとなりました。また、週1回の積極的な運動習慣を持つことにより、38%の発症リスク減少も明らかとなりました。運動不足は、まさしく高血圧の危険因子なのです。さらに、尿酸と高血圧発症についても、尿酸値が高くなればなるほど将来の高血圧発症の危険度が高まることも明らかとなりました。現在高血圧の合併がなくても、高尿酸血症を有している方は、良好なコントロールを保つことが高血圧予防の視点からも重要です。
 また、高血圧に関する最近の知見として、2003年に発表された「高血圧の予防、発見、診断及び治療に関する米国合同委員会の第7次報告」において、「速歩(最低30分/日、週の内ほとんど毎日)といった定期的な有酸素運動」の実践で、収縮期血圧が4〜9mmHgの低下が期待されるとしています。さらに肥満者は、適正な体重を維持することによって、つまり、減量することによって5〜20mmHg/10kgの収縮期血圧の低下が期待されるとしています。そのほか食事療法により(果物、野菜の摂取、脂肪摂取量の減少など)により8〜14mmHg、ナトリウムの摂取制限で2〜8mmHg、アルコール制限で2〜4mmHgの収縮期血圧の低下が期待されます。
 また、最近話題となっている睡眠時無呼吸症候群も高血圧を引き起こす原因として注目されており、短時間睡眠では翌日の血圧上昇が認められ、長期に続くことによって、脳・心臓疾患による死亡率も増加することが報告されています。
 現代社会はストレス社会とも言われており、私たちは数え切れないストレスに取り囲まれて生活しているといえます。しかし、取り巻く環境の流れに押し流されて自分を失ってしまっては健康という貴重な財産を失ってしまうことになります。生活環境にながされることなく、多くの研究成果を一つの目安として、自分自身でコントロールして健康を維持することが現代人の知的護身術といえるのではないでしょうか。
(5)The Osaka Health Surveyからみた健康づくりの考え方 〜ライフスタイルと2型糖尿病〜
 The Osaka Health Surveyとは、企業に勤める男性従業員(35歳以上)を対象に、高血圧、2型糖尿病などの生活習慣病の危険因子を分析して明らかにすることを目的としたコホート調査です。1981年から1991年までに登録された35歳から60歳までの男性8410名を対象として、5年から16年間観察した結果、喫煙、飲酒、運動習慣などが生活習慣病の危険因子となることが改めて明らかとなりました。
 ここでは、生活習慣と2型糖尿病発症の危険度について述べてみたいと思います。
 まず、喫煙については、2型糖尿病の危険因子になるかどうか議論されていましたが、研究結果では、喫煙しない人の相対危険度を1とした場合、1日あたりの喫煙本数が増加するに従って発症危険度が高くなりました。具体的には、1〜20本で1.40、21〜30本で1.40、31本以上で1.73となり、喫煙習慣は2型糖尿病発症の危険因子であることが明らかとなりました。
 飲酒については、同じ飲酒量であっても肥満度の値によって2型糖尿病発症の危険度に差異があることが明らかとなり、BMI(Body mass index)が22.1以上では減少し、22.0以下では増加する傾向が認められました。肥満傾向のある方は、飲酒が2型糖尿病の危険因子となります。
 運動習慣については、週に1回以上活動的な運動を実践することにより、2型糖尿病の発症の相対危険度は多変量補正後0.75と減少しました。また、週1回休日のみに運動することによっても、その危険度が減少することが明らかとなりました。また、運動習慣を有することによりその後の2型糖尿病発症の危険度が低下することから、将来の健康のために年齢に関係なく運動を開始することの有効性も認められました。
 また、血圧と2型糖尿病発症との関係では、正常高値血圧群(収縮期血圧130〜139mmHgまたは拡張期血圧85 〜89mmHg)、高血圧群(収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上)では、1.39倍、1.76倍と高くなり、血圧異常も2型糖尿病の危険因子であることがわかりました。
 これらの結果は、2型糖尿病の予防には、体重管理に気をつけ、禁煙と節酒に努めることが重要で、さらに、活動的な日常生活を送ることの重要性を示しています。生活習慣病は、まさしく悪しき生活習慣の継続の結果と言えるのでしょう。
(6)健康づくりのための身体活動
 健康づくりには、栄養、運動、休養が三本柱とされています。が、ここでは健康づくりのための運動について述べてみます。運動といいましても、日常生活の中に組み込めるものが健康づくりの基本となりますので、一般的には身体活動という表現のほうが好ましいといえます。「健康づくりのための運動所要量策定検討会報告書」には、毎日行う場合の1日の運動時間として、速歩(100m/分)25分、自転車(18キロ/分)25分、ジョギング(120m/分)20分が適当な例として挙げられています。この報告書からもわかりますように、健康づくりに関しては、どのような運動をするのかではなく、どのくらいの運動をするのか、つまりどのくらいのエネルギーを使うのかが大きな課題となっているのです。事実、アメリカの研究(paffenbargerら)では、週当たりの身体活動量が500kcal以下の群の死亡相対危険度を1とした場合、500から999kcalでは、0.78、1000から1499kcalでは0.73、1500から1999kcalでは0.63と順次減少傾向にあることが示されています。また、1999kcalを1とした場合には、2000kcal以上では、0.72と危険度は減少していることも示されてます。このように強度ではなく、身体活動量が死亡危険度と関係しているのであれば、こまめに体を動かして消費エネルギーを高めるようにすればいいということになります。一方、時間がないという人は、強度の運動を短時間すればよいということで、健康状態、年齢、体力などを考慮した運動メニューを自分自身で選択すればいいのです。また、この研究では、たとえば、50〜59歳では、週当たりの身体活動量が500kcal以下の群の死亡相対危険度を1とした場合、500〜1999kcalでは0.86、2000kcal以上では0.64になることが示されています。35〜49歳、1、0.97、0.79ですが、60〜69歳では、1,0.63、0.53とそれぞれ順次危険度は低くなっているものの、加齢とともに、身体活動量は、大きな影響力を持つことが示されています。
 ただ、同じ研究者の報告では、うつ病に対しては、週当たり15kmの歩行によって危険度が0.88に低下するのに対して、週当たり2500kcal以上の身体活動量の場合は0.72となっています。自分のライフスタイルにあった身体活動を自分でアレンジして、そして実践することが心身両面の健康づくりに有効であることがわかります。つまり、生活習慣病、心の病気を予防するには、毎日の身体活動量を増やすこと、週に1、2回は汗を流すような活動的な運動・スポーツをすることが必要である。
(7)運動不足が影響する病気とその科学的根拠 〜新しい名前の運動不足病〜
 運動不足(生活全体の身体活動が不足しているという表現の方が正確)は今や地球的規模で拡がり、その影響の一つである肥満者が増加しているということが世界各地の調査により報告されています。これまで肥満は、どちらかというと、先進諸国の健康問題とされがちでしたが、発展途上国においても肥満の蔓延(まんえん)が問題になってきています。日本でも若い年齢層の女性を除いて肥満者が着実に増えており、肥満の増加に伴い、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化など、肥満に関連する病気にかかる人も増え、今後の医療費の動向に大きな影響を及ぼすものと考えられています。
 米国では、政府機関やNPOなど多くの団体が、身体活動の不足およびそれに関連した肥満の増加傾向に対して警鐘を鳴らし、全国的な様々なキャンペーンを展開しています。そういう状況の下、2000年にセダンタリー・デス・シンドロームSedentary Death Syndrome(SeDS)という病名が提唱されました。SeDSとは、座りがちで、あまり動かない生活(例えば、歩行強度以上の身体活動が1日に15分に満たない)を続けていることが生死に関わる恐れのある病気を筆頭にさまざまな病気に関係していることを印象付けるねらいで名付けられた病名(症候群)であり、26の病的な状態(表)を列挙しています。実に多くの病気に運動不足が関係し人々の健康をむしばんでいること、また皆さんの馴染みが深い病気が多いことが注目されます。 
 SeDSの名前を提唱に当たっては、人々をあおるような意見を述べたり大げさに言ったりすることはなく、身体活動不足に関連する可能性の高い科学的根拠に基づいています。過去においても運動不足病という似たような意味の病名(日本の「成人病」と「生活習慣病」の関係に似ていますね‥‥)がありましたが、言葉のインパクト度はSeDSがはるかに大きいように感じられます。なお、表2は前々回のニューズレターでも述べました、運動との関連について科学的根拠が確かな病気を分類したものです。
 日本でもSeDSの名称が関心を引くかどうかは適切な日本語訳が可能かどうかですが、座死症候群、運動不足致死症候群、低身体活動死亡症候群、あるいはオリジナルとはニュアンスが異なりますが、怠惰早世症候群、グータラ早死症候群などはどうでしょうか?
 以上のようなやり方で、府民の運動不足について警鐘を鳴らし、何とか改善しようという意欲を高めるキャンペーンのアイデアを考えてみてはいかがでしょうか!
表1 SeDSに含まれる26の病的状態 表2 身体活動量と疾患の罹患率・死亡率の関連
1 狭心症、心臓発作(冠状動脈疾患) 14 低HDLコレステロール血症
2 関節炎による痛み 15 更年期の様々な症状
3 不整脈 16 肥満
4 乳がん 17 骨粗鬆症
5 結腸がん 18 膵臓がん
6 うっ血性心不全 19 末梢血管疾患
7 うつ病 20 身体的虚弱
8 消化器疾患 21 早世(壮年期死亡)
9 胆石症 22 前立腺がん
10 高トリグリセリド血症 23 呼吸器障害
11 高コレステロール血症 24 睡眠時無呼吸
12 高血圧症 25 脳卒中
13 認知機能の低下 26 2型糖尿病
疾病または病的状態 研究の数 科学的証拠の強さ
全死亡 *** ↓↓↓
冠動脈疾患 *** ↓↓↓
高血圧症 ** ↓↓
肥満 *** ↓↓
脳卒中 ***
末梢血管疾患
結腸がん *** ↓↓↓
直腸がん ***
胃がん
乳がん **
前立腺がん ***
肺がん
膵臓がん
U型糖尿病 ** ↓↓
骨関節症
骨粗鬆症 ** ↓↓
研究の数
*少ない研究.おそらく5未満>
**約5〜10個の数>
***10個以上の研究の数>
証拠(身体活動が多いほど疾患や死亡が減る)の強さ
→証拠がない>
↓いくらかの証拠がある>
↓↓よい証拠がある>
↓↓↓優れた証拠がある>
      (アメリカスポーツ医学協会ガイドライン6版)
(8)科学的な健康づくりT
 運動の健康や病気の予防効果については多くの科学的根拠が集まっていますが、一方で両刃の剣と言われるように、運動による危険性もしばしば話題になります。今回は、循環器系に対する運動の弊害の科学的根拠について論じてみましょう。
 まず、運動による弊害には、突発的なものと長期的なものに分けることができます。突発的なものとしては、運動中の著しい血圧の上昇、不整脈、血流の障害、血液の固まりやすさの変動、及びそれらが原因でおこる心臓発作、脳卒中、あるいは突然死の発生リスクの増大などが挙げられます。特に運動中あるいは直後の突然死はしばしばマスメディアでも採りあげられますが、中高年者の突然死の原因疾患は、心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患(70%以上と言われる)が圧倒的に多く、脳卒中がそれに続くとされています。
 運動時の突然死の危険性に関する古典的な研究によれば、運動している最中に心臓発作をおこす危険性は、運動していない時の4〜12倍に達すると報告されています。一方、米国の男性医師を対象にした最近の研究では、多量の汗をかくような強い運動の最中または直後に突然死の起こる危険性は、他の時間帯に突然死が起こる危険性の約17倍にも達しましたが、絶対的な危険性という点では150万回の強い運動に対して1回の突然死がおこる程度に過ぎないという計算になります。また、突然死の危険性は、日頃の運動の頻度と関連があり、運動が週1回以下の男性は週5回以上の男性と比較して7倍も高い結果でした。要するに、たまに行う強い運動は良くないが、日常的に運動するのであれば突然死の危険性は比較的低いという結果でした。
 長期的には、運動によって心臓に大量の血液が戻りかつ強く押し出すことによる心臓及び血管壁へ負担が悪影響を及ぼすおそれがあります。また、運動中に生じる活性酸素が血管の老化を促進するおそれがあることを心配する向きもありますが、一般的には運動不足の方がはるかに良くないとされています。米国の大規模調査報告では、身体活動量が少ない、多い、中等度の順に死亡率が低くなり、身体活動量が多い方が中等度の方よりも高い死亡率を示しました。わが国でも、従来重労働に属する仕事に従事した人から脳卒中が多発したという報告があります。もっとも、米国大学卒業生の例のように、強い運動をしていた者ほど寿命が長いという報告もあり、確定的な結論は出ていない状況です。
 以上の結果をふまえると、健康づくりの観点から運動の効用を求めるならば、中等度の強度の身体活動が好ましく、強い運動ならなるべく定期的に行うべきと考えられます。
(9)科学的な健康づくりU
 今、時代は正に健康ブーム。多様なメディアから溢れんばかりの健康情報が流されています。多量で種類が豊富なのは良いことなのでしょうが、肝心の質はどうなんでしょうか。同じテーマを扱っていても見解がバラバラで、一体どう判断したら良いのか混乱している人が多いのではないでしょうか?
 進歩が著しい医療現場でも、すこし前までは、伝統的に行われてきたから、エライ先生が決めたから、患者に使って有効だったという報告があるから、この治療を続けるといったものがかなり多くありました。この論法では、本当に効果的な治療なのか、有害な副作用はないのか、もっと良い治療はないのか、もっと効率的な治療はないのか、などが曖昧なままになってしまいます。
 そこで、単に伝統や権威によらず、治療法の判断基準として、科学的根拠がどの程度そろっているか(Evidence-based Medicine、EBM、科学的根拠のある医療)が重要視されるようになってきました。この流れは、病気の治療の領域だけに止まらず、冒頭の様々な健康法の有効性や地域や職域における健康づくり施策の効果判定にも影響を及ぼし、科学的根拠が求められるようになってきました(健康科学センターは科学的な健康づくりをサポートし、正しい健康情報を発信することをめざしています)。
 そこで、このシリーズでは、様々な健康づくり(特にスポーツに関連した)について、科学的根拠の視点で、 知って得する情報を提供したいと思います。
 次回から具体的なトピックスを紹介する前に、今回は科学的根拠の強弱の判断基準について、例を交えて示します。
 「○○式ダイエットを試したら、驚くほど簡単に減量できた!」というたぐいの話を新聞や週刊誌の広告でよく見かけます。減量に苦労している人には大変魅力的な話なので、直ぐにでも試してみたくなる気持ちはよく理解できます。しかし、この手の話には、科学的根拠の視点ではいくつか問題があります。まず、報告の結果は誰にでも当てはまるかという問題です。減量できた人は確かにいたとしても、その背後に効かない人が多数いるかもしれないということです。また、最近のダイエット用健康食品による健康被害でもありましたように、安全性に関するデータがないと安心できません。さらに、短期に減量できても長期的にはリバウンドで元通りという例もあります。また、新たにダイエットを決意した瞬間から日常生活習慣全般が影響を受け、他の要因の影響で減量できた可能性もがあります、等々。
 どうですか?このように、一つの要因がある問題を改善するのに有効であることを証明するのは意外に難しいことが分かると思います。ちなみに、研究の種類によって科学的根拠の強弱のランク分けが可能です(表)。健康情報の質を判断する上で役立ててください。
●関連リンク
健康・体力づくり事業財団「健康ネット」
http://www.health-net.or.jp/